◎輝く島原人Vol.45 「勇往邁進(ゆうおうまいしん)」~終わらない農家道(のうかどう)~  広報しまばらでは、生き生きと活動し、楽しみながら社会に貢献する人生の達人たちを「輝く島原人」として紹介しています。  第45回目は、雲仙・普賢岳噴火災害で大切なものを失って、ひたすらに農業を続ける福島 茂(ふくしま しげる)さんを紹介します。 「人生の達人」福島 茂(67) 昭和29年、白谷町で生まれ、育つ。高校卒業後、家業の農業を継ぐ。葉たばこ栽培に従事していた37歳の時、雲仙・普賢岳噴火災害を経験。甚大な被害を受けながらも葉たばこ栽培を続け、県を代表する生産地としての地位を守り続ける。長崎県指導農業士(H14~H30)、島原半島農業士会会長(H19)、島原たばこ生産組合長(H22~)、市制施行80周年記念表彰「産業功労」(R2)。白谷町在住。 (写真)眉山と平成新山を望む土地で葉たばこの収穫作業をする福島さん ○葉たばこ農家のプライド  物心ついたときから、葉たばこ農家で育った福島さん。地元の農業高校を卒業後、自然な流れで家族と農業を営むことを決めました。  白谷地区のすぐ側にある水無川周辺は、降雨時以外には流水が無く県下随一の葉たばこ生産地帯でした。今から30年前、雲仙・普賢岳噴火災害の被害を受けてから、状況は一変。火山灰が一帯に降り積もり、畑も自宅も立ち入り禁止の警戒区域となりました。  多くの生産者が農業をあきらめる決断をする中、新たに土地や施設を借り農機具を用意し、葉たばこ生産を続けました。火山灰などの影響で数年間は品質が悪く、苦労を強いられる日々が続きましたが、あきらめることはありませんでした。  災害前は98人ほどいた生産者も、作物や職種を変えたり、高齢化や後継者不足などが原因で、今では7人まで減少しました。それでもひた向きに、たばこ作りを続け、県を代表する葉たばこ生産地区としての地位を守り続けています。「喫煙に対する是非が叫ばれる昨今ですが、県を代表する農作物を生産している自負を持ち、少数精鋭でこれからも頑張ります」と、島原たばこ生産組合長としての思いを語ってくれました。 ○思いと記憶を未来へつなぐ  子育て時期は、第五小学校のPTA会長と市PTA連合会長を兼務しながら、島原半島農業士会会長を務め、さらには消防団員としても活動するなど、多忙な日々を過ごしていました。  30年前、運命の6月3日。いつものように消防団活動をしていた際、大規模な火砕流が発生。状況を見るために北上木場の農業研修所に向かい、16時8分の大火砕流に遭遇しました。熱風や真っ赤な石、黒い煙に覆われ外は真っ暗で何も見えない中、命からがら助かりました。  このような経験を誰にも味わわせることが無いよう、自主防災会組織などを通して、自分にできる役割を果たしていきたいです」と、当時の経験を思い出しながら話してくれました。  災害からの復興の影響で、農業基盤は整備され、大型重機を使用した機械化による、高効率な農業が可能となりました。さらには、品種の転換などもあり昔に比べ生産が楽になるなど、プラスな一面があるのも事実です。  「犠牲となった仲間のためにも、この地で自分が出来ることを、体が動く限り続けていきたいです。子から孫、そしてその先へと未来永劫、この地を守り続けてくれると嬉しいです」と、優しい瞳の奥に辛い思いをにじませながら、これからの人生について語ってくれました。 (写真)身の丈ほどに茂った葉たばこを家族総出で収穫