島原南部の有明海に面した地域で、6月の大潮の時、潮が引いた沖に出て、「いぎす」という海草を採取します。足から腰ぐらいまで水につかり、綿帽子のようにふわっと浮かんでいる濃いえんじ色のいぎすを、金属製の八つ手のような「ごうかき」という道具でひっかけます。石についている根は簡単にはずれ、細かく枝分かれした固まりがとれます。てんぐさより長く、さわるとしゃりしゃりして心地よいのがこの海草の特徴といえます。
島原の乱後、この地に移住してきた四国の人たちの影響で、今治(愛媛県)あたりのいぎす豆腐がもとであるといわれています。干しいぎすをさらすと、もとの一斤が約40匁に減ります。うるち米の新しい米ぬか5合を布袋に入れて水2升の中でもみ出し、一番ぬか汁でいぎす40匁を浸して洗います。水気をしぼって、二番ぬか汁2升くらいを入れ、火にかけて練る。ぬか汁は少しとりのけておき、加減を見ながら加えていきます。いぎすは水やもち米のぬか汁ではよく溶けませんが、うるちぬか汁で30分ほど煮ると、不思議と溶けてきます。
中に入れる具は、にんじん、きくらげ、しいたけ、魚(さば、いわし、白身の魚など)を小さく切って砂糖醤油で煮ておきます。落花生は炒って渋皮をとり、ふきんに包んでたたいておきます。豆腐は小さくさいの目切りがよいです。
いぎすがよく溶けてとろみが出てきたら、具と煮汁を入れて味を整え、また10分くらい練って、ねぎの小口切りを散らした流し箱に流して固めます。ようかんのように切って大皿に盛って出すが、中の具のおいしさと、のどの通りのよさで、ほかにごちそうがあっても、つい手が出てしまう素朴な郷土料理です。
また、中に具を入れないものを白いぎりすといって、仏事に用います。細く切って、ごま醤油や白あえで食べます。この本いぎすに対して、もう一つ藻いぎす(えごのり)というものがあります。これは藻につく赤い花で、藻をとってきて花を集めます。この花を、ぬかではなく味噌を水に溶いた汁で炊くと、こりこりしておいしいいぎりすができます。